「守りたかったのは、誇りじゃない。仲間と生活だった。」〜共販出荷に戻った私が見た、前に進むということ〜

お問い合わせはこちら

農業ブログ

「守りたかったのは、誇りじゃない。仲間と生活だった。」〜共販出荷に戻った私が見た、前に進むということ〜

2025/06/15

「もう共販出荷には戻らない」

ずっとそう思っていた。いや、思い込もうとしていたのかもしれない。

農協の規格、価格決定の不透明さ、流通の歪み──
そんなものに振り回されるより、自分たちの力で売っていこう。
うちのネギに合った販路を、自分たちの目と足で開拓しよう。

そうして何年もやってきた。
共販には頼らず、直販・契約・紹介などで販路を築いてきた。
販促も、出荷も、価格決定も、自分たちでやる。
それが「うちらしさ」だと、そう信じて疑わなかった。

でも──今年の夏、“戻った”。

久しぶりに共販出荷をした。


 

生活と向き合った結果の決断

これは、誇りを捨てた話ではない。
「生活」と「仲間」を守るために、私が選んだ“現実的な決断”の記録だ。

初夏ネギの出荷は、本当に時間との勝負になる。
気温は高く、ネギは日々成長し、劣化も早い。
収穫適期は一瞬で通り過ぎていく。

その一瞬を捉え、売り切ることができなければ、
何十万、何百万の損失になる。
それはもう、“理想”なんて言ってる場合じゃない。

今年は、取引先の需要が読みにくかった。
いつも声をかけてくれるお客さんもいた。
でも「この量を、いま一気に出したい」という局面で、どうしても足りなかった。

提案もしたし、売り込みもした、できるだけのことはやった。
最後に、どうしても心のどこかで引っかかっていた“あの選択肢”が、ふっと頭をよぎった。

「共販出荷」という道だ。

迷った。かなり迷った。
自分の中のプライドと、現場の現実がぶつかり合った。

でも、ふと気づいた。
この迷いは、誰のための迷いなんだ?

──自分のプライドのためだ。


 

守るべきは「自分の気持ち」じゃなかった

私が守りたかったのは、「かつて掲げた信念」でも、「意地」でもなかった。

毎月の給料を心配せずに働ける職場
農業を“仕事”として真っ当に回していける環境
その中で一緒に頑張ってくれている仲間の生活

それが何よりも優先されるべきだった。

だから私は、出荷を決めた。

農協に、久しぶりにネギを出した。


 

やってみたら、気づいたことがある

共販出荷には当然、規格がある。
サイズ、軟白の長さ、曲がり、葉の枚数、状態……
決して“自由な売り方”ではない。

でも、その規格に合わせようと選別基準を見直し、
作業を改めて丁寧に進めたとき──ふと気づいた。

「お? なんか、全体の品質が一段上がったな」

共販規格に合わせることで、
自然と作業の“精度”が高くなり、
ネギ全体の見た目が整ってきた。

その瞬間、これまでとは違う「収穫の充実感」があった。

決して、共販に媚びたわけじゃない。
規格に合わせることで、逆に“基準”が研ぎ澄まされた。


 

品質の底上げは、信頼の底上げだ

うちが大切にしてきたのは、取引先との信頼関係だ。

「後藤農園のネギなら安心だ」
「毎回品質が安定してる」
「急な相談にも応えてくれる」

そう思ってもらえることが、私たちの販路の基盤になっている。

そして今回、共販に合わせた結果として品質が上がったことで、
その信頼も、きっともう一段上にいけると感じた。

会議でも伝えた。

「今回の出荷は緊急対応かもしれない。でも、これはチャンスでもある。
共販出荷を“品質改善のきっかけ”にして、今後の直販・契約出荷にも活かしていこう」と。

この経験が、うちのチーム全体の意識に火をつけた気がしている。


 

一つの道に固執しないことの大切さ

「共販出荷には戻らない」と言っていた自分がいた。
でも今は、「その時々で決めればいい」と思っている。

本当に大事なのは、選択肢を持ち続けること。
そして、「何のために、誰のために」その選択をするのかを見失わないこと。

農業経営は、まっすぐじゃない。
いろんな曲がり角があって、迷いもあって、そのたびに答えを出さなきゃいけない。

だからこそ、今回の決断は、私にとって大きな学びだった。


 

最後に──これからを生きるすべての仲間へ

まだ夏は終わっていない。
むしろ、ここからが本当の勝負だ。
気温は上がり、ネギは刻一刻と姿を変えていく。
売り先の動きも読めない。理屈通りになんか、いかない。

でも、だからこそ、私たちは“チーム”でやる。
一人じゃ折れそうな場面も、
仲間がいれば、立て直せる。
支え合えば、笑える。

選んだ道が正解かなんて、すぐにはわからない。
でも、信じた道を、最後まで走りきったやつだけが見える景色があると、私は思っている。

農業は孤独な仕事だと言われる。
でも、それでも前に進もうとする農家の背中は、誰よりも強く、誰よりも美しい。

私はこう思っている。

 

「なんとかなる」。

 

どんなにしんどくても、踏ん張ってるその姿こそが、次の未来を切り拓いていく。