4日で辞めた人を、私は採用できるか?
2025/04/09
― 経営者としての本音と、農業の現場で見てきた現実 ―
昨日LINEニュースで、「入社4日目で退職代行を使い退職した」という若者のニュースを目にした。 正直に言えば、「さすがに早すぎるだろう」と思った。 4日って、まだ始まってもいないうちに辞めたようなものだ。
でも、一方的に否定するわけではない。 私自身もこれまでに転職を繰り返してきたし、「このままここにいたら壊れる」と思ったこともある。 だから「辞める」という選択そのものを、責めることはしたくない。
だけど――それでも、経営者としての本音を言えば、やっぱりその人を採用する気にはなれない。
採用は「信頼に投資すること」
誰かを雇うってことは、その人に時間とお金をかけるということ。 育てるには、教えるには、任せるには、たくさんのエネルギーが必要だ。 教える側にも覚悟が要るし、現場の空気や仲間の信頼にも影響が出る。
だからこそ、「この人は本当にここでやっていけるか?」を見極める必要がある。 履歴書に「前職の在籍期間4日」と書かれていたら、どんなに理由があっても、やはり不安になる。 「また同じことになるかも」という疑念は、なかなか拭えない。
今初めて会った人の言葉を真摯に受け止めれるほど私は純粋でもなければ聖人でもない。
けれど、話は聞く
面接で語られる言葉には、限界がある。 美しい理由も、ストーリーも、どこまでが本音でどこまでが演出なのか、見抜くのは難しい。
実際、これまでに「過去にうつ病だったけど、今は元気になったので農業で働きたい」と面接に来た人が何人もいた。 まるでリハビリをしに来たというニュアンスにすら聞こえたが、その気持ちは受け止めたし、偏見なく向き合った。 でも全員が、数日で辞めていった。
連絡がつかなくなる人もいれば、ショートメールで「辞めます」とだけ送って終わる人もいた。 言葉は交わしたけれど、信頼は交わせなかった。
だから私は思う。 話はちゃんと聞く。事情も聞く。 でも、言葉だけでは信用できない。 その人が「本気かどうか」は、言葉よりも行動でしか分からない。
これまでの人生で岐路に立った時、私は、いつも険しいであろう道を選んできた。
何度か転職もしてきたし、そのたびに「どうせ辞めるなら、次はもっと厳しい道に行こう」と自分に言い聞かせてきた。
農業を始めたのも、その延長だった。 最初はうまくいかないことだらけで、何度も心が折れそうになった。 でも、踏ん張った。泥にまみれながら、歯を食いしばって、少しずつ前に進んだ。
そうやって身につけたのは、技術じゃない。 生きる力、働き続ける力、自分と向き合う力―― それが、今の自分を支えてくれている。
組織が大きかろうが小さかろうが、求められるのは「人間力」だ。
ありがたいことに、今の後藤農園は離職率がとても低い。 辞めていく人は、ほとんどいない。 厳しい仕事だけど、みんな黙々と、でも時には笑いながら、日々の仕事をこなしてくれている。
それは「人に恵まれている」だけではなく、 時間をかけて、少しずつ「共に働ける人」を選んできた結果だと思っている。
規模を拡大するなら、ひとりの存在が大きくなる。 人材は希望でもあり、同時にリスクにもなりうる。
だからこそ、採用は本気で向き合うべき仕事だ。 数十分の面接の中で、「この人と未来をつくれるか?」と自分に問う。 正解なんか分かるわけない。
でも私は、採用の重みを知っている。 そして、選ぶことの責任も、すべて引き受ける。
人は、過去ではなく「問い」でできている
人は、過去の履歴で評価されがちだ。 学歴や職歴、資格やスキルといった情報が、履歴書という形で整然と並べられる。 確かにそれらは、その人の「これまで」を映し出す大切な要素だ。
でも本当に見るべきは、「この人が、これから何を問い続けていくか」だと思う。 自分自身に問いかけながら、迷いながら、それでも立ち止まらず進もうとする姿勢こそが、人を成長させる。問いがある限り、前を向ける。
過去に逃げたことがある人も、やり直せる。 人は誰しも、弱さや恐れを抱えている。 でも、そのあとに「もう一度、自分はどうありたいか」を問い続けられる人には、再出発の力が宿る。
逆に、自分に問いかけることをやめた人は、きっとどこに行っても同じ壁にぶつかる。 何をしても他責にし、環境や他人のせいにしてしまう。 そのループから抜け出すには、自分自身と誠実に向き合う「問い」が必要だ。
なぜ働くのか。なぜ続けるのか。なぜ踏みとどまるのか。 そして、なぜここにいたいのか。なぜ、もう一度信じてみようと思えるのか。
その問いを、何度も自分に投げかける力こそが、人間力だと思う。 私は、そういう問いを背負いながら働ける人と、一緒に未来を作りたい。