農業×ランチェスター戦略
2025/05/05
今日は少しビジネス寄りな視点から、僕が日頃の農業経営でとても大切にしている「戦略」について書いてみたいと思います。
突然ですが、みなさんは「ランチェスター戦略」という言葉をご存知でしょうか?
これはもともと、第一次世界大戦の戦闘理論をもとに発展した**“強者と弱者の戦い方の違い”を体系化した戦略論**で、日本では特に中小企業の経営戦略として有名です。
ランチェスター戦略の考え方を一言で言えば、
「強者は広く薄く、弱者は狭く深く」
ということ。
つまり、「リソースの少ない弱者が、大手と同じ土俵で戦ってはいけない」という、当たり前だけど意外と見落としがちな事実に気づかせてくれる理論なんです。
私たちのような農家もまさに“弱者”。だからこそこの戦略を農業経営に取り入れることで、少しずつですが「選ばれる農園」になってきたという実感があります。
今日はその経験をもとに、「農業×ランチェスター戦略」のリアルをできる限り丁寧に、具体的にお届けします。
なぜ「弱者の戦略」がいま農業に必要なのか?
農業は、実は「不利な条件」がいくつも重なった産業です。
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価格決定権がない(市場や量販店に決められる)
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資本が集まりづらい(担保になりづらい土地、回収に時間がかかる)
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天候リスクが大きい(努力が不意になることもある)
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人材の定着が難しい(長時間労働・低賃金イメージ)
こうした環境のなかで、「大手と同じことをやろう」としたら勝てるわけがありません。それでも、意外と多くの農家が「とにかく売上を上げたい」「もっと広げたい」と“広く薄く”を目指してしまう。そこに落とし穴があるのです。
ランチェスター戦略は、その真逆を提案します。
弱者は、広げるな。絞れ。
それは、“逃げ”ではなく、“勝つための選択と集中”なのです。戦略的に見れば、自らが勝てるフィールドに特化することが、唯一の生存戦略と言ってもいいのです。
「絞る」ことの怖さと強さ
ランチェスター戦略で最も重要なキーワードは「1点集中」。
でも、それを実際にやるのは簡単ではありません。
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注文が来たのに断る勇気
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価格で選ぶ顧客を手放す決断
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今まで作ってきた作物を減らす覚悟
農家にとって“絞る”という行為は、短期的には売上を捨てることにもつながります。「せっかく反応があるのに」「あと少しで拡大できそうなのに」──そんな誘惑に抗い、戦力を分散させずに一点に集中するのは、本当に勇気のいることです。
ですが、その先にあるのは“深さ”です。
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地域に根付き、地元での認知が高まる
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顧客との距離が縮まり、「顔が見える関係性」になる
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作物に対するこだわりが磨かれ、ブランド力がつく
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作業工程が安定し、スタッフの定着率も上がる
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調製オペレーションに無駄がなくなり、ロスが減り、利益率が自然と改善されていく
結果として「この人のネギじゃないと」「この農園の芋をまた食べたい」と言われるような、信頼の蓄積=継続的な選ばれ方が生まれてくるのです。
広く薄く撒くのではなく、狭く深く耕す。農業経営の本質はここにあると、僕は実感しています。
「勝つ」とは何かを再定義する
私はかつて、「年商1億円」がひとつの目標でした。でも、その目標を目前にして考え方が変わりました。「勝つ」という言葉の定義を、もう一度問い直してみたのです。
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売上は7000万円だが、利益率が25%ある
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離職率は限りなくゼロに近く、スタッフが安定して働いている
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顧客の7割がリピーターである
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地域で「後藤さんのネギ」として名前が通っている
──これらはすべて、売上の数字以上に大切な「勝ち方」だと感じています。なぜなら、農業は長期戦だからです。一時のブームや話題性に頼るより、着実な信頼の積み重ねこそが“勝つ”につながるのです。
ランチェスター戦略が教えてくれたのは、「強者に追いつけ追い越せ」ではなく、自分が“勝てる場所”で自分らしく勝つという選択肢の存在でした。
実践例──後藤農園が取り組んできたこと
では実際に、後藤農園ではどのように「戦力を絞る戦略」を具体的に実践してきたのか。以下の4つが私たちのコアとなる実践です。
1. 地域を絞る:静岡県内に特化
出荷の依頼は全国各地からいただくこともありますが、私たちはあえて地元・静岡県内に販路を集中しています。出荷量のおよそ90%を静岡県内で販売しております。理由はシンプルで、配送コスト・時間・品質保持、そして何より「顔が見える関係性」が築けるからです。地域密着だからこそ信頼が生まれ、安定した注文につながります。さらには地域からの紹介やイベントなど、意外な波及効果も大きいと感じています。
2. 顧客層を選び抜く:信頼関係を築ける相手に集中
価格で勝負する相手よりも、「価値を理解し、想いに共感してくれる相手」と長く付き合いたい。その考えから、チェーン店や加工業者、小売店、それから地元の飲食店も含め、直売所の常連さんなど、本当に求めてくれる方に届けることを大事にしています。
「うちじゃないと困る」と言ってくださる方々が、結果的にこちらの負担を理解してくれたり、天候による遅れも快く受け入れてくれたりする。関係性を築くということは、ただ物を売る以上の信頼が積み重なるということです。
3. 商品を絞る:白ネギとサツマイモに特化
いろんな作物に手を出していた時期もありましたが、最終的にたどり着いたのが「白ネギとサツマイモ」。この2品目に絞ったことで、設備・技術・チーム体制の最適化が進み、収益性が格段に安定しました。さらに、この2品目は年間の作業バランスや貯蔵性の面でも相性がよく、栽培管理と販売戦略の両面で無理がないことも大きな強みです。
4. 発信を絞る:Instagram+ブログ
情報発信も「数を打つ」より「刺さる内容を届ける」戦略にシフト。農園の取り組みや働く人の姿、日々のちょっとした感動を、SNSとブログで継続的に発信。これが採用や新規取引にも結びついています。
「見てますよ」と言ってもらえる回数が増え、「会ってないけど知ってる」と思ってもらえる状態は、初対面でも信頼の土台を作ってくれます。
「No.1主義」で農業は変えられる
ランチェスター戦略のもう一つの柱が「No.1主義」です。大きな市場の中で2位や3位を目指すのではなく、小さくても一番になれる場所を見つけて、そこに集中することが大切です。
たとえば:
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地元の白ネギでNo.1の認知度を持つ農園
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農家としての発信力で地域No.1
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働きやすさ・定着率でNo.1
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サステナブルな農業を実践する農園としてNo.1
「比べられる環境で勝てる状態をつくる」。このシンプルで明快な戦略が、意外と多くの農業者にとって抜け落ちていることが多いのです。
おわりに──小さな農園でも、尖れば光る
私たちは、資本力も広告力もない“弱者”かもしれません。実際、目の前の経営資源は限られ、毎年天候や相場に左右されながらの運営です。けれども、そうした制約があるからこそ、逆に「どこに力を注ぐべきか」が見えてくる──それがランチェスター戦略の大きな教えです。
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強者の真似をせず、自分の土俵を見極める
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勝てる場所を明確にし、必要な相手とだけつながる
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戦力を分散させず、一点集中で成果を積み上げる
たとえば、全方位型の営業をやめて、信頼関係を築ける相手との取引に絞る。多品目をやめて、品質と歩留まりに自信のある作物だけに集中する。情報発信も、誰にでも届くものより、共感してくれる未来の仲間に届くものへ。
こうした絞り込みの結果、「この人から買いたい」「この農園で働きたい」と言ってもらえるような関係性が、自然と生まれてくるのです。小さな農園でも、戦略を持てば価値を最大化できる。そのことを、僕はこの15年の農業人生で何度も実感してきました。
農業は、弱者が勝てる産業です。大規模化や最新技術だけが正解ではありません。戦い方さえ間違えなければ、必ず結果は出る。僕はそれを証明するために、学び続け、挑み続けていきます。
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